島田荘司です。


 これからの刊行予定と、その内容をお知らせします。


6月20日、東京創元社のミステリー専門誌、「ミステリーズ!」。
 「ミステリーズ!」が、東京創元社から創刊されます。これは以前の「創元推理」の後を受けるミステリー専門誌で、年内は季刊、来年からは隔月刊、再来年からは月刊誌を目指します。しかしこうした移行は、予定より多少遅れるかもしれません。
 vol.1に、「新世紀の新本格」と題するエッセーを載せます。これは新世紀の新本格の姿を探る私のメッセージで、新本格へのエールのつもりで書きましたが、また例によって物議をかもすかもしれません。しかしこれが古典的行儀論や、平等主義を活用したいつもの個人誹謗扇動に終始することなく、真摯な創作論議としてテーマの追求が深められるなら、日本の本格の延命、更なる隆盛に貢献するであろう自信を持っ
ています。
 vol.2からは、以前より乞われていた連載を予定しています。鮎川賞の審査員をまだしばらく続けることになりましたし、これはやるつもりでいます。何をやるかは、いろいろと候補案を持っていますが、どれにするかはまだ決定していません。御手洗氏が登場する本格を望まれてはいます。


6月25日、講談社四六ハードカバー装丁、「21世紀本格宣言」。
 これは上記の「ミステリーズ!」での議論をさらに発展させ、新世紀の本格のあるべき姿を、ともに考えようとするものです。冒頭の章では「名探偵」という存在を、過去を回顧、現在を俯瞰、そして未来の姿を視野にとらえようとするものです。名探偵は、果たして背景や人生を持たない特権記号であるべきが最善か。「名」を冠しない「探偵」は存在しないか。過去を踏まえた新本格のこの回答は、永劫の生命を保ち得るか。儒教国情は現象と無関係か。これらを、ジャンル外の情報を駆使して考察します。
 また日本の探偵小説が過去、歪んだ過渡的な国情を、知らず活写してきている事実も指摘します。この本の表紙は、このサイトの扉部に示されます。
 
7月25日、講談社簡易ハコ入り四六、書き下ろし、「透明人間の納屋」。
 これは表紙に石塚桜子さんの「響振」という作品を使用させてもらいました。この装丁デザインも、このサイトの扉に示されます。文中にも、桜子さんの小品がふんだんに挿入されます。桜子さんの作風と、この作品の持つ雰囲気がよく一致したためです。
 物語は、20数年前に日本の地方都市で起こり、日本中を巻き込んで大騒ぎとなったあるミステリー現象を扱います。事件当時、主人公「ぼく」は、隣家の真鍋さんから事件の真相を示されます。当時は納得しましたが、おとなになった今、その回答こそはとんでもない話であり、到底信じることのできない不可解現象となっていました。
 英文タイトルは、「The Invisible Man’s Virus」。書き終えてからSARS現象が起こり、中心テーマとともに、期せずして時事もののようになりました。追憶のノスタルジーに彩られた、ちょっと文芸寄りの作品。御手洗さんも、吉敷さんも登場しません。


8月25日刊行予定、南雲堂、「島田荘司全集・1」。
 全集の第1刊配本となります。「占星術殺人事件」、「斜め屋敷の犯罪」、「死者が飲む水」の3作を収録しますが、3作ともに「改定完全版」の文字が冠されます。今後の配本も、初期のものはすべて徹底して手を入れるつもりでいます。
 これはむろんハコ入りの装丁ですが、画期的なアイデアを持ったデザインです。建築家、安藤忠雄展を観ていてひらめいた考え方を戸田ツトムさんに提案し、受け入れてもらいました。全集としてはまず、日本初の試みと思います。巻末に、どんな加筆をしたかを中心に、思い出話など、私自身の解説を付すつもりでいます。
 
9月25日刊行予定、講談社ノベルス書き下ろし、「ネジ式ザゼツキー」。
 21世紀型本格の、これが実践作という位置づけになるでしょうか。御手洗さんとハインリッヒが登場します。2人と患者との何気ない会話から、とてつもない世界が徐々に導かれていきます。
 おそらく相当に前衛的な作品となるでしょう。現在執筆中なので、変更になるかもしれませんが、横書き印刷、一部縦書き印刷という型破りなものになるかもしれません。そして横書き会話の一部が、英語で行われる可能性もあります。そのようにする必然性があるからです。
 つげ義春さんの「ネジ式」という漫画は、昔読んだらしい記憶がありますが(水から上がってきている少年の絵、1点だけを見たのかもしれませんが)、今現在、漫画のストーリーはまったく憶えていないので、無関係と思います。ただこれも「魔神の遊戯」のようなもので、どこかの1点が似ているということが、もしかするとあるかもしれません。ここを拡大して、剽窃とするストーリーが作られるかもしれませんが、今の私には、まったくその意識はありません。


10月25日、角川文庫、「ハリウッド・サーティフィケイト」。
 これは以前刊行のものの文庫化ですが、一部加筆する予定でいます。


11月刊行予定、光文社文庫、「世界怪奇実話―牧逸馬精選集。島田荘司編」。
 これは没後50年が経過した街逸馬氏の傑作短編群から、現代にも通用し、また創作の参考ともなりそうな何点かを私が選んで、タイトルも一部は今ふうに改めて、現在の読者に供しようという企画です。
 牧逸馬氏は1900年の生まれですが、早くから海外に出て、国外の情報を創作に取り入れた先駆的な人物です。そういった事情もですが、海外のミステリーに関する趣味も、面白いほどに私と共通していて、切り裂きジャック事件、マリー・セレスト号事件、タイタニック号の遭難などを、日本に詳しく紹介したのも彼が最初でしょう。
 当時のやや扇情的なタイトルは、今はもうその必要がないので、膾炙された通り名を含むものにあらため、紹介します。たとえば「女体を料理する男」→「切り裂きジャック」。「海妖」→「マリー・セレスト号事件」。「白日の幽霊」→「テネシー州、猿裁判」。「戦雲を駆ける女怪」→「マタ・ハリ」、というようにです。創作的な手法が用いられていますが、すべてノンフィクションです。巻末に、私が詳しい解説を書く予定にしています。


 「ネジ式ザゼツキー」が終り、「ミステリーズ!」の1回目を書いたら、光文社の「龍臥亭事件2」に取りかかる予定にしています。それから、特に刊行予定月は書きませんでしたが、上記の仕事と並行して、カキフライカヌーさん、杉永さん、巧巳さんの、3共著作品の執筆も進めます。できあがったものから順次刊行していく予定です。こちらも楽しみにしていてください。
 もう一点、「伊根の龍神」はちょっと待ってください。どのようにし、いつにするか思案中です。「龍臥亭事件2」は、これは別物です。

2003年6月8日 島田荘司